カチガワ録音雑記

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1964年、Bill Dixon主催で開催された「ジャズの十月革命」に於いてJazz Composer's Guildが設立されました。これは当時盛り上がっていたFree Jazz/Avan-Gardシーンを、レコード会社やクラブのオーナー等を介さず、ミュージシャン自らの手で作り上げていこうとしたもので、PaulとCarla のBley夫妻、Michael Mantler、Cecil TaylorArchie Shepp、John Winter、Sun Ra、Burton Greene、Roswell Rudd、John Tchicaiらが参加しました。これは、名門クラブ『バードランド』が経営不振に陥って閉店するなど、当時のジャズが商業的に奮わなくなってきた事も関係しているようです。モダンジャズですら下火なのに、先鋭的なフリー/アヴァンギャルドがまともにプロモートされるわけないですからね。同年12月、Bley夫妻とMichael Mantlerが中心となりギルド内外のメンバーでオーケストラを編成し、定期演奏会を開く事になりました。それがJazz Composer's Guild Orchestraです。これにより、主に金銭的な面で実現が困難だった大編成でのフリー/アヴァンギャルド的な作曲を可能にし、フリー=混沌という概念が支配的だった当時のシーンをクリエイティブな方向へと向けるのが狙いだったようです。残念ながらこの企画はギルド内の不和による瓦解で翌年には頓挫してしまいますが、その時の演奏がfontanaというオランダのレーベルからリリースされています。


[Communication]
Roast:
Michael Mantler(tp)/ Roswell Rudd(tb)/ Willie Ruff(frh)/
Steve Lacy(ss.soloist)/ John Tchicai, Jimmy Lyons(as)/ Archie Shepp(ts.soloist)/ Fred Pirtle(bs)/
Paul Bley(p)/ Eddie Gomez(b)/ Milford Graves(d.soloist)


Day, Communication #5:
Michael Mantler(tp.soloist)/ Roy Codrington(tp.soloist)/ Roswell Rudd(tb)/
Steve Lacy(ss)/ Robin Kenyatta, Jimmy Lyons, Ken McIntyre(as)/ Bob Carducci(ts.soloist)/ Fred Pirtle(bs)/
Paul Bley(p)/ Kent Carter, Steve Swallow(b)/ Barry Altschul(d)

作曲と即興の境が曖昧な[Roast]はCarla Bley作で、「ジャズの十月革命」関連の企画「十二月の四日間」での演奏。JCGOの処女公演。作曲と即興の線引きが明確な他2曲がMichael Mantler作。4月の定期演奏会にて。どちらもオーケストラというより集団即興の色合いが濃いですね。
ギルド解体後の66年、Carla BleyとMichael MantlerがJazz Composer's Orchestra Association(JCOA)を設立*1。その後ワークショップを催しつつ、様々なコンポーザーによる作品を合計7作リリース。


[Communications]
Communications#8:
Steve Lacy, Al Gibbons(ss)/ Gene Hull, Bob Donovan(as)/ Lew Tabackin, George Barrow(ts)/ Charles Davis(bs)/
Lloyd Michels, Randy Brecker(flh)/ Bob Northern, Julius Watkins(frh)/ Jimmy Knepper(tb)/ Jack Jeffers(btb)/ Howard Johnson(tuba)/
Carla Bley(p)/ Kent Carter, Ron Carter, Richard Davis, Charlie Haden, Reggie Workman(b)/ Andrew Cyrille(d)


Communications#9,#10,Preview:
Al Gibbons, Steve Marcus(ss)/ Frank Wess, Bob Donovan(as)/ Lew Tabackin, George Barrow(ts)/Charles Davis(bs)/
Lloyd Michels, Stephen Fortado(flh)/ Bob Northern, Julius Watkins(frh)/ Jimmy Knepper(tb)/ Jack Jeffers(btb)/ Howard Johnson(tuba)/
Carla Bley(p)/ Ron Carter, Eddie Gomez, Charlie Haden, Steve Swallow, Reggie Workman(b)/ Beaver Harris(d)


Communications#11 part1&2:
Al Gibbons, Steve Marcus(ss)/ Bob Donovan, Jimmy Lyons(as)/ Lew Tabackin, Gato Barbieri(ts)/ Charles Davis(bs)/
Lloyd Michels, Stephen Fortado(flh)/ Bob Northern, Julius Watkins(frh)/ Jimmy Knepper(tb)/ Jack Jeffers(btb)/ Howard Johnson(tuba)/
Bob Cunningham, Charlie Haden, Reggie Johnson, Alan Silva, Reggie Workman(b)/ Andrew Cyrille(d)


All music composed and conducted by Michael Mantler

1作目は、fontana盤から引き続いてMichael Mantler作曲[Communications]と[Preview]を収録。前作は#4、#5が収められていましたが、本作は#8から#11。68年の1月、5月、6月と3回に亘って録音しています。かなり長い期間を費やしていますが、20人の大編成では無理ないでしょう。リハーサルのスケジュール調整だけでもうんざりしそう(笑)。その甲斐あって、オーケストラの厚みや面白さが前作の比じゃないです。前作ではプレイヤーとしてソロも執っていたマントラーが指揮に徹しているのも大きいでしょう。これ聴いた後では、前作は習作だと言えますね。ソロイストは#8がDon Cherry(cor)、Gato Barbieri(ts)。#9がLarry Coryell(elg)、#10がRoswell Rudd(tb)、PreviewPharoah Sanders(ts)(3分台の小曲ですが、往年の怪獣映画のテーマみたいで面白い。ソロイストの選択が的確すぎる!)、#11がCecil Taylor(p)(この曲のみpart1,2と2日間に亘って録音)。どこのレビューでも言われている事ですが、とにかくCecil Taylorのソロが凄まじい。とんでもないキレとスピード。完璧に手入れされたOLの肌よりキメが細かい。最早、呆然とする以外に手立てがない。他の曲では、ソロイストがオーケストラに従う形であるのに対し、ここではソロイストが全体を支配してます。というかこの日のオーケストラには当時のCecil Taylorカルテットのメンバーが全員いるんですよね。2曲とも中盤以降は完全にAndrew Cyrilleとのデュオになってるし。彼の要望でそうなったとしたら完璧な策士ですね。Michael Mantlerとオーケストラが築き上げてきたFree Jazzのモニュメントとでもいうべき一連の作品。その締めくくりで彼が粉々に破壊してます。少しでもフリー/アヴァンギャルドに興味がある人には絶対に聴いて欲しいですね。ラスト2曲の印象があまりに強いですが、他の曲も充分いけますよ。あのラリー・コリエルですら良い!

*1:なぜPaul Bleyが不参加なのかはお察し下さい。