カチガワ録音雑記

地域の皆様に愛されて100年。カチ録は街の情報発信基地。

太陽はもう輝かない

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『ミッドサマー』を観た。カメラワーク、構図、色使い、衣装、美術、音楽、すべてがハイレベル。それらが混然一体となり、えぐ味とギャグの狭間で物語を支える。観客は強制的に幻覚剤を投与され、バッドトリップを味わう。不安を煽りに煽られ、開き直って笑うしかなくなり、却って清々しい気持ちになった。可笑しくて仕方ない。“ド田舎でカルトに捕らわれ、酷い目に遭う若しくはその一部になる”と言えばホラーではお馴染みのプロット*1だが、非凡な表現で見事名作に仕上がった。『ヘレディタリー』といい、アリ・アスター監督は露悪趣味に陥ることなく最悪を表現するのが本当に巧い。感服致しました。

残念ながらパンフは売り切れ。再入荷予定とのこと。もう一回観に行くのもいいが、なにしろ感染症がよくわからないことになっている。もうあまり街へ出たくないのだ。困った。

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*1:一番近いのが『ウィッカーマン』(73年)かな

2020年2月21日

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大阪へ行ったついでにエキスポシティで『1917』を観てきた。エキスポシティと言えば日本最大級のスクリーンでIMAXレーザー/GTテクノロジーが堪能できる劇場だ。IMAXレーザーというのは平たく言えば4K映像と12chサラウンドのことで、最近になって名古屋の109シネマズもIMAXからIMAXレーザーに変わった。ただ、GTテクノロジーの文言は付いていない。どうやら2台の映写機を利用して巨大スクリーンに対応したものをGTテクノロジーと呼んでいるようだ。確かに名古屋のスクリーンはIMAXシアターの中では最小サイズだ。ただ、それでも普通の劇場サイズのものに比べればずっと大きい。エキスポシティがあまりにも大きすぎるのだ。呆れるほど大きい。しかしそれは、価値ある大きさなのだ。

ここで映画を観るのは2回目。数年前、ダンケルクを観るためだけに車を走らせた。凄まじい臨場感と没入感。始まった瞬間「スクリーンの只中に自分が居る」感覚に陥った。大げさでなく本当にそうなった。劇中の張りつめた空気をまともに喰らい、終始胃袋を鷲掴みにされる感覚を味わった。あれは忘れられない。自宅に有機ELテレビとUHDBDプレーヤーを導入したのはあれを少しでも追体験したかったからだ。もう何回も観てる。最高。

話を戻そう。1917だ。ダンケルクの緊張を再び、と思っていたのだが、そうはいかなかった。引き込まれはするものの、ずっとゲームのプレイ動画を観ているような感覚だった。実際、相当に意識して作られているようだ。TPS視点を意識したカメラワークも、長回しのカットを繋いで疑似ワンカットとしたのもゲームのそれだ。現代のゲームは、プレイアブルな場面とカットシーン(いわゆるムービー画面)がシームレスに繋がり、没入感を促進する作りになっている。あの文法で映画を撮ればこうなる。かつてゲームは映画から強い影響を受け、ひたすら近づこうと努力していた。そしてクソゲーの山を築いた。だが今では、映画へ影響を及ぼすまでになった。これまではアクション映画が主だったが、とうとうこんな作品が作られるまでになった。今作は生々しい臨場感を伴うが、途中からはっきりとファンタジーへ舵を切る。賛否分かれるとすればそこだろう。自分も戸惑った。ただ、その映像がどれを取っても息を呑むほど美しい。戸惑いながらも、映画の底力を感ぜずにはいられなかった。

2020220

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いつかは行こうと思っていた2月20日。通称セコナンの日。前年の2時間20分セットは熟慮の末見送ったが、今年はその音源が2枚組プレスCDとして配布されるという。バンコクから帰国したばかりのタイミングだが、躊躇うことなく大阪行きを決めた。22時きっかりに始まったライブは、まず音の良さに驚いた。このハコは音響が良いと聞いてはいたが、ここまでとは。このバンドの出音は常に良いが、今回はずば抜けている。演奏もキレキレ。約1時間強、神秘体験とすら言える程の陶酔を味わった。何度呻き声を漏らしたか…。ごちそうさまでした。目当てにしていたロンTはあっという間に無くなったそうだ。あれは欲しかった。

2月3日

Tank And The Bangas @ 名古屋ブルーノート

演奏や構成、客の煽りどれをとっても完璧で、「ニューオーリンズ発ソウルバンド」と言われて期待するところ全てに応えてくれたライブだった。2ndステージだけあって1曲目からフルスロットル。もちろんブチ上がった。最終的に観客総立ち。70分じゃ全然足りないので、次の来日ではスタンディングのホールでフルサイズのライブをやって欲しい。座って行儀よく観るもんじゃないよこれは。


Tank And The Bangas: NPR Music Tiny Desk Concert

1月18日

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『パラサイト』を観てきた。

人々の有り様を明け透けなユーモアで描いて見せる手法は『吠える犬は噛まない』の頃から一貫している。ポン・ジュノ作品で描かれる人々はどこか滑稽で、間が抜けている。そんな人々を通じて、身も蓋もない現実を観客へごろりと投げ出して見せる。作中で何かが解決されることはほとんどない。楽しく観ていたはずなのに、心に棘が刺さったような感覚にさせられる。ニヒリズムへ逃げ込んでいない分、観客への問いも明確だ。そこが『ジョーカー』とは違う。はっきり傑作と言い切れる。めちゃくちゃ面白かった。

 

2月10日追記:アカデミー作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞受賞。韓国映画の、アジア映画の作品賞受賞は快挙でしょう。発表聞いて奮えた。おめでとうございます。

『ジョーカー』が獲らなくて本当に良かった

12月21日

スターウォーズ:スカイウォーカーの夜明け』を観てきた。

そこそこ楽しい映画に仕上がってはいるものの、『ジェダイの帰還』と『エンドゲーム』(なぜ引き合いに出したかは観ればわかる)の興奮には到底及ばずといったところ。『最後のジェダイ』はやんわりと覆され、昔取った杵柄を再利用したかのような映画だった。できれば上手く引き継いで欲しかったが、これで前作は本当に鬼子のような存在となってしまった。キャスティングも演出も保守的で、ローズの出番は大幅減。レイには急ごしらえで苦悩を充てがい、その代わりカイロ・レンの葛藤に費やす時間を減らしてしまった。最終作にもかかわらず軌道修正に時間を取られた感。結局、なんとも中途半端な3部作となってしまった。これなら全部JJにやらせたら良かったのに。キャスリーン・ケネディの采配に問題があったんだろうし、ファンダムにも負けたと思う。今回のパルパティーンに『ヘルレイザー2』のチャナード博士を連想してしまい、そこで一番笑った。